まぐろぐ

まぐろぐ−さかなのこと、伝えたい。広く。浅く。楽しかったらなお良し。

エイを新鮮なうちに貪り喰う(肝刺身)【2016/08/15】

 

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こんにちは、ほんでぃです。

でかい魚が釣りたい。あわよくば食べたい。

 

 

ある日そんな欲求が抑えきれなくなった。

おもむろにPCを立ち上げ、ドドドドとキーボードを連打。

 

鬼の様に検索をかけて行き着いた先が今回のターゲットだった。

 

今回狙ったのはエイの中でも「アカエイ」という種類で、大きいものは2m位にまで成長する。その割にはかなり浅いところにも生息しており、分布地域の砂浜ならばわりとどこにでもいる印象。東京湾にも個体数がめちゃくちゃいて、お台場なんかにも出没するらしい。

尾の付け根辺りにゴツい毒針を持っている。これに刺されると激痛が走り、傷口が壊死を引き起こし完治までにとても長い時間(ネットで見たら“数年かかる”っていう情報も出てきた)がかかるという。危険生物。毒を受ける場所によっては、下手したら死ぬ。

 

ちなみに、食べると(エイの中では比較的)おいしい。とのこと。

肝も煮付けて食べられる。とのこと。

 

 

よし。

 

 

新鮮なアカエイを手に入れる

 

エイやサメは軟骨魚類というグループに分類される。

彼らは体の中に尿素をため込んでおり、それで海水との浸透圧を調整しているのだ。

絶命すると、この尿素が微生物の働きで分解され、アンモニアが発生する。

 

つまり、くさい。

公園のトイレの匂いを少し薄めたような匂いが出てしまう。

臭いの発生を防止するために、釣るや否や迅速に血抜きや内臓処理などの下処理をする必要がある。

 

魚市場でエイを売るためには、ヒレだけの状態にする必要があるらしい。

まるまる持ってきても、誰も買い手がいないとのこと。

下処理が面倒である割には、高値をつけるわけではない。加えて、大怪我を引き起こす毒針を振り回すアカエイ。漁師の方々は網にかかるとわざわざ出荷せず、海に戻してしまうそうだ。

 

よって、適切な処理が施されたエイが、僕たちの目に触れることは少ない。

普通に生活していて、新鮮なエイを手に入れることは非常に難しいのだ。

本当に美味しく食べるのであれば、自らの力で手に入れるしかない。手間と交通費と釣り具代、そして毒針のリスクを克服して初めてエイが手に入る。

 

釣って、その場で締めて、血抜きと解体、身と肝を氷漬け。

YouTubeの動画で脳内シュミレーション。

 

「でかい魚を釣りたい!」という想いが、いつの間にか「新鮮なエイを食べたい!」に変わっていた。

 

 

佐渡島のエイ。帰省ついでにエイ。

 

 

昔、地元でエイを一回だけ引っ掛けたことがある。

ラインは細めのPE1号。リーダーはフロロの4号。何もできずに切られてしまった。

そんなことを思い出しながら島へと帰る。あの島にはエイがいる。しかも、かなりの数がいたような記憶がある。

今回、帰省する予定があったので、刺激に飢えた釣り仲間2人を誘い、思い出のポイントに行ってみた。基本的にエサを投げ込んで放置する釣りなので、人数はたくさんいた方がありがたい。エイの引きは強烈なため、釣竿をその辺に放置しておくと、かかった瞬間に水中へと持って行かれてしまう。

 

道中、スーパーでエサになりそうな魚を購入。ぶっちゃけ、鶏肉とか他の家畜の内臓なんかでも釣れそうなイメージがあるけど、確実に釣りたいということで無難な選択をした。

 

加えて、毒針対策をしなければならない。

最悪死ぬ可能性があるわけなので、真面目に協議する必要がある。

様々な道具を取り扱う「100円ショップ」に、完璧な装備を求めて前のめりに入店した。

 

 

対策としてまず「自らの防御力を上げる」方法が考えられる。

具体的には軍手やタオルなどを腕やら足やらに巻き、腹には少年ジャンプを仕込む。もし毒針を食らっても跳ね返すことによって、その危険を回避するという戦法だ。

しかし、これは難しい。ネットの情報を見ると「ゴム長靴を貫通した」などの物騒な記事を見かける。破壊力が高すぎる。また、尻尾は縦横無尽に振り回されるため、もし本当に全方位からの攻撃をガードするのであれば、顔その他を覆う必要があり、釣りそのものに支障が出る可能性がある。

 

ならば「尾から距離をとる」のはどうだろう。尾の長さはせいぜい1m無いくらい。その射程圏から距離をとりながら、毒針を処理する。

ある程度の長さと、細い尾をロックする何かが必要だ

 

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ギュッとつかむか……

 

 

 

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絡め取る感じでいくか……

 

 

 

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押さえつけて固定……お?

 

 

おぉ! これはいいんじゃないか?

だって

 

 

 

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エイを安全に抑え込むことができる

 

 

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しかも食卓にそのまま持っていける

 

 

 

 

かなりいい線を行っていると思うが、これでは肝心な尾の毒針を抑え込めないことに気がついてしまった。残念ながら却下だ。

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実際はきっとこんな感じ。あぶない。

 

 

 

あーでもない、こーでもないと売り場をウロウロする。

『エイの毒針を安全に処理する何か』

こんなストイックな要求を、超田舎、離島のダイソーに求めた人間が果たしてこれまでに存在しただろうか。しかし、さすがはダイソー。我々の特殊な悩みもしっかり解決してくれた。

その答えがコレだ……!

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杖。通称『エイスティック』

 

ショッキングピンクにお花をあしらったゴージャスなデザイン。

おわかりだろうか。

このエイスティック、持ち手が絶妙に湾曲しており、エイの尻尾を抑え込むのに適した形状をしているのだ!

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エイ釣り界のグッドデザイン賞と言わざるを得ない

 

 

こうして心強い武器を手に入れ、実釣へと向かう。

正直、ここまででも十分楽しんでしまった。ような気がする。

しかし、今回の釣りはこんなものでは終わらなかった。

 

 

エイ、超釣れる! 超引く! 楽しい!!

 

ポイントに着くと、10cmくらいの小魚が大量に群れていた。網ですくってみると、ボラの幼魚だ。エイは傷ついて動けなくなったこいつらに乗っかって、底でむしゃむしゃやっているに違いない。ということで、そのまま何匹かキープした。

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唐揚げにするとおいしそう

 

おっきい針と太い糸に捕まえたボラの幼魚をつけて、深みに向かって投げ込む。

竿の先には鈴を付ける。魚が食いついて引っ張られると、鈴が鳴って教えてくれる仕組みだ。

数分待っていると、早速僕の竿がチリンと鳴った。

 

竿を大きく立てて糸のたるみを取ると、ものすごい重量感が伝わってきた。

大きい。

スピード感は無いが、時折ものすごいトルクで走り出す。限界まで締めたアンタレスDCのドラグがギリギリ鳴って、糸が引き出されていく。

 

ゆらゆらと左右に走る。なんとなく、エイっぽくない? エイにしては泳ぎすぎな気がする。もしや、ヒラメやコチのおっきいやつか?

高級魚の気配を感じ、やりとりがちょっとだけ慎重になる。程なくして巨大な魚体が波打ち際に横たわった。 

 

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あれ? ここ波打ち際……

釣れてきたのはすごい体高のコイだった。

ビッグサイズのヒラメやコチに比べるとどうしても見劣りはしてしまうが。それでも自分史上、最大サイズのコイだ。やはり嬉しいものは嬉しい。

 

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幅もすごい! そりゃー引くわな。

 まじで重すぎて持ち上がらないので、魚を持った腕を前に出すことができない。誇張なしでこのサイズだ。幸先がいい。

 

それから場所を移動し、程なくして仲間が大きなエイを釣り上げた。

周囲の状況からそこがエイの回遊ルートであると読み、腰を据えて狙う。

 

それからというもの

『投入→15分待つ→誰かに掛かる→他の2人は仕掛けを上げ、見守る』

を繰り返した。かかってからのやりとりが少し時間がかかるのと、毒針の処理を念のため複数人でやる必要があったため、エイがかかってない人はサポートにまわる。

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こんなでかいエイが立て続けに

 

 

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楽しそうだなおい。俺も楽しかったわ!

 

 

そうこうしているうちに自分の竿にも待望のヒット!

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竿が曲がるぜ

 

 

めちゃくちゃ重い!

エイはその独特な形状のせいで、水圧を一身に受けることができる。

海底にぺたりと張り付いてしまったら、底から浮かせることが難しいのだ。

そういう時は上方向に引っ張る。竿の曲がり、弾力を使って一定の力をかけ続けると、やがてゆっくりと浮いてくる。

しかし、ようやく浮かせたかと思えばギリギリと糸を引き出しながらすごい力でまた海底に戻って行ってしまう。

それでも、浮かせてはまた潜られを何度か繰り返していると、そのうち波打ち際まで寄ってきた。

 

先ほどのエイスティックを使い、波打ち際をならす。

エイは大変重いので、少しでも段差があると陸にあげることができなかった。

エイスティックはこんなところでも活躍するのだ。

 

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必須アイテム

 

ならしたら、そこにゆっくりとエイを連れてくる。

重量のあるエイを引っ張るという行為は糸や仕掛けにとても負担がかかる(というか重すぎて持ち上がらない)ので、エイの体全体が水から出たあたりから、またまたエイスティックの出番だ。

 

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友人ヘルプと友人撮影の友情プレー

 

持ち手のカギ状になっているところをエイに引っ掛け、引きずりあげる。

安全かつ仕掛けの壊れるリスクを排除することに成功した。

エイスティック有能すぎ。

ラバーカップじゃこうはいかなかったな。

 

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ラバーカップ

 

 

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めちゃくちゃ重いぜ!(前日に撮影)

 そしてあがってきたエイはまあまあでかいやつ。

尻尾の先まで含めると1mちょっとくらい。重量は未測定だけど、顔が引きつるくらいの重さはある。

 

いやぁ〜楽しかった。

竿の曲がりも楽しめて、数年前のリベンジも果たせて、満足満足。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではない。

 

 

新鮮なエイをさばく

(さばきます。流血注意)

 

ここで終わり、ではない。

すぐに処理を開始する

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エイスティック実用例

 

まず、エイスティックで尾を固定したまま、これを切り落とす。

尾の根元には危険な毒針がある。すでに折ってはいるが、念のため。てか怖いので。

安全を確保したら、次はエイヒレを外す作業だ。

 

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グレーのラインに沿って包丁を入れる

内臓を傷つけないようにヒレを外していく。いわゆるエイヒレというやつだ。

ヒレにはびっしりと骨が入っているが、エイは軟骨魚類なのでこれは包丁でポキポキと簡単に切り進めることができる。

ヒレを切り分けることができたら、口の下のところから肛門まで浅く、内臓を傷つけないように包丁を入れ、中の肝臓を取り出したところで過食部位の処理は終了だ。切り分けた部位を真水で洗い、氷で冷やす。釣り場でここまでの作業を行った。

 

f:id:hondylog:20160820182003j:plain帰宅。巨大なエイヒレと肝

まな板にギリギリ乗るか乗らないかのサイズ。これが二枚と、ボウルに写っている肝が今回の収穫だ。奥に写っている包丁を基準にサイズを想像してみてほしい。まじででかい。そして、みんなが思っているよりかなり分厚いぞ。びっくりした。今回、断面の写真を撮らなかったので、気になる人は自分で釣って、確認してほしい。

あ、エイスティックを装備するのを忘れずに。

 

で、このエイヒレ。この後、皮を剥いでいくのが、この皮がとてもぬるぬるするので、ウツボの時のようにまず塩を振ってヌメリを取っていく。

hondylog.hatenablog.com

 

このヌメリが強靭で、塩を使っても一向に取れる気配がない。

しょうがないので、キッチンペーパーを使い摩擦を強くした状態で皮を剥いでいく。

 

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皮を剥いで、半分にした

ここまでくればほぼ食材。

火が通るものなら、軟骨もろとも煮たり揚げたりして、独特な食感を楽しんだらいい。

生でいくのであれば外したほうが無難かも。

 

 

さて

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刺身

 

まずは刺身から。

刺身はとても弾力がある。が、あんまり味はないイメージ。とはいえ、臭みなどは全くない状態だった。

もっと薄く切って、歯ごたえを楽しむのにはいいかもしれない。

 

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煮物

 

これは鉄板。

ぶつ切りにして軟骨もろとも煮る。普通に美味しい。 

 軟骨のぽりぽりとした食感も感じることができる。

ただ、軟骨といえど結構硬くて、顎が疲れた。

そして。

 

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唐揚げ

 

 これが一番美味しかった!

ふわふわとした身の食感と、ポリっとした軟骨の食感が相まって口当たりが煮物よりもいい感じ。軟骨も煮物より食べやすい気がする。

唐揚げということで濃いめの味付けがなされたが、淡白過ぎるのでこのくらいがいいのかもしれない。むしゃむしゃ食べることができた。

 

 

こうして、エイ尽くしを心ゆくまで楽しんだ。 
軟骨の食感に関しても、その気になれば「ポリポリ」以外の言葉で30分は表現し続けることができるくらい食べた。もうエイについて知ることはない。そう思うほどに。もし、アカエイについて質問のある人がいれば何でも聞いてほしい。回答の真偽については保証しないが、実感を持って答えることができるようになった。

 

 

しかし、その考え方は井の中の蛙にすぎない。

「エイヒレはエイである」が、「エイはエイヒレではない」のだ。

エイヒレはエイの一部だ。その一点を極めた程度で「エイについて知ることはない」とは、エイに失礼である。

 

我々はもっと、エイについて知る必要がある。

 

 

 

エイキモの刺身

 

再度ご覧いただきたい。

 

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上の方に写っているのが、エイキモ

 

 

さて、果たして大丈夫なのだろうか。

めちゃくちゃ鮮度の高い肝。これを刺身でいく。

祖母が漁師をやっていたが、エイキモを刺身で行くヤツは見たことないと言っていた。

一部地域では、牛レバ刺しの代わりとして提案しているお店もあるらしい。

とはいえ、底にいる生き物を何でも食べてしまうような悪食に加え、あまり綺麗とはいえない水質のところでとってきたエイ。

寄生虫、有害物質、生臭さ、すべての恐怖を乗り越えて、一段上の領域に挑戦する。

 

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今回のメインとも言える

ごま油と塩で。

左側二つは完全な生。右側二つはさっと湯通しした。

僕は嫌いなものを先に食べるタイプなので、安全そうな湯通しの方は後にして、まずは生のほうからいってみることにした。

おそるおそる口へと運ぶ……現段階で生臭さを鼻に感じることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

うん!

ぷりっぷりの歯ごたえだ。

そして、噛むごとに濃厚な旨味が口の中に広がる。

懸念していた生臭さ・魚臭さも多少感じはすれどさほど強くはない。アンモニア臭も感じない。下処理がしっかり生きている!

超美味しい! もっと食べたい! となるほどではないが、食べれないわけではない。

 

そうなると、火を通したほうが気になる。

かすかに感じた生臭さも消えて、より食べやすくなっているのはなかろうか。

ハードルが下がり、すっと口に運ぶことができる。

 

 

 

あれ?

生より臭い?

味自体はあまり変わらないのだが、魚臭さが喉の奥の方に残るように感じた。

この臭さはそこそこ厄介で、水を飲んでもなかなか消えない。

刺身にわさびを多めに付けて食べることにより、ようやくすっきりすることができた。

 

 

 

結果的にエイキモのレバ刺しは、無理して食べるほどのものではないなぁと思った。しとはいえ、この鮮度のエイを確保できるのは釣り人の特権! であるので、釣り人に限定して言えば、試さないままでいるのも勿体無いんじゃないの? とも思う。引きも強いし、有能だと思うんだけどなぁ、エイ。

 

あとになってさらに詳しく調べた時に出てきたエイキモのレバ刺しの写真は透き通るようで本当に美味しそうだった。もしかしたら、また釣りに行くことになるかもしれない。より適切な鮮度管理と処理を調査する必要がある。かも?

 

どうしても食べたい人は言ってください。

釣ってきて、売りますね。

 

 

おわり

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