【2012年マレーシア釣行】ケニール湖⑤
ところどころ、道路に大きな穴が空いている。
ご飯を盛る時にしゃもじじゃなくてでかいスプーンを使っている。インディカ米だから盛り辛いのか?
ガフさんが遅くなるというので、陽気なじーちゃんとお茶にする。ココナッツとミルクのパンケーキみたいなお菓子をもらう。「アパン」というらしい。
あんぱんみたいだ。食べたら全然違う味だったけど。
続けて、三角形の春巻きのようなお菓子をもらう。「カリパ」というらしい。カレーパンみたいだ。
中身はサツマイモ、甘い。全然カレーじゃない。名前から連想されるイメージと味にギャップがあって、なんだか複雑な気持ちになる。
ドリアンジュースを飲んだ。臭くない。メロンとキウイを混ぜて、酸味を消去したような味だった。
今日は釣れるのか、今日も釣れないのか。
連日の貧果にも、段々と慣れてきてしまった頃だった。
Lasir waterfall へ!
ガフさんが用事を終えて姿を見せた。
僕を見るなりニヤッと笑って
「ホンダ、ラッシー滝へ行けるぞ。」
と短く言った。
カリパ、落とすかと思った。
なんと、別の団体がラッシー滝へ向かうツアーを組んだらしい! 1人旅ということで、船の空いてるところにソッと乗せてってくれるとのこと!
「ただし、ツアー客のフリしろよ。他の客が帰るって言ったら、一緒に帰るんだぞ」
……しゃあ。
健康に効くっぽいお茶っぽいものを出すツアーっぽい
ラッシー滝はまだそこそこ水量があった。滝つぼでは多くの人々が水浴びをしている。そこから少し離れたところで、流れに垂直になるようにスピナーをキャストした。数投後、クンと竿先に反応が出る。しばらくノーフィッシュが続いていた僕は、頭を真っ白にさせながら、必死に糸を巻き取った。
セバラウ。鯉科の魚っぽい。最大で70cmにまでなるらしい。僕の釣ったのは40cmにも満たないお子様サイズ。それでも、めちゃくちゃ嬉しくて写真を撮りまくったんだ。
もっと手を前に伸ばせばいいのに…笑
魚を持って船に戻ると、船着き場には見覚えのあるハウスボートが泊まっていた。旅の前半で僕が宿泊したハウスボートだ。見覚えのある顔が手を振っていた。そのまま僕は食事に誘われ、先ほど釣ったセバラウと引き換えに昼食を手に入れた。
昼食を頂きながらよくみると、船の上から何人かが釣りをしている。なんか釣れた? と聞くと、船の後部に連れて行かれた。そこには彼らの昨晩の釣果が並んでいた。タナゴを大きくしたような小魚がたくさん、そして、ひときわ目を引く異形。どくんと、心臓が大きくなった。
ベリーダだ。ずっと探していたそいつが横たわっていた。
少し緑がかった黒っぽい銀。
妖しい輝きを放っている。
憧れ。
ベリーダには奇妙な特徴があるらしい。
なんと、舌に牙が生えているというのだ。釣って、確かめることを今回の釣行の裏目的としていたが、確認できる絶好の機会を得てしまった。
が、口元まで手を伸ばして、やめた。
ここで今、事実を確認して、果たして何になるのか。
舌に牙があることは知っている。
自らの力で手にした魚を、自らの手で、自らの目で確認することに意味が、意義があるんじゃないか、と。
頭だけ撫でて、船を後にした。
ツアーが終了とのことで、一度滝から戻ってきた。
時刻は昼過ぎ。魚が釣れる気配はない。
ふと、気になった。
首都に向かう高速バスはどこで手配するのか。
旅もそろそろ大詰め。帰る準備をせねばならない。
ガフさんに尋ねる。
「ウチのボスが手配できるぜ。ちょっと聞いてくるわ」
とのこと。なんだか強そうな人が出てきそう。
待ってる間、食堂で軽食を取る。
ロティ チャナイ
ロティはパンケーキのようなもの。これがめちゃくちゃ美味しい。
こっちでは軽食として食べられているそうな。
程なくして、ガフさんが戻ってくる。
ボスは今日、お忙しいらしい。
「夜には手が空くと思うんだが。夜まで釣りに行こうか?」
突然の提案に、僕はロティと生唾をごくりと飲み込んだ。
念願の夜釣りへ
日が暮れる。風がほのかに涼しくなるころ、船はとあるワンドの入り口に着いた。ワンドの一番奥は小さな滝壺になっている。明らかに何者かが潜んでいる。不気味な雰囲気を醸し出されていた。
11cm、ピンクのフローティングミノーを結ぶ。ラインシステムをチェックする。今回の旅で一番有望そうなポイント、時間帯だった。幸い天候もまだ崩れていない。
この度のターニングポイント。成功か。失敗か。
好機。釣れるとしたら、ここだ。
新呼吸。大丈夫、集中できている。
一投目は流心の左側、滝壺より手前に落ちた。
軽くトゥイッチを入れながら巻いてくるも、反応はない。
二投目はより集中して。
流心の右側、さっきより奥。滝壺の脇に投げ込む。
が、反応はない。
さて。次は流心。
流れの中でバランスを崩す小魚を表現する。
明日の夜にはケニールを発たねばならない。
薄暗い状況、マズメ時。ベリーダの活性が上がる時間帯に、奥地のポイントへアクセスできるのはこれが最後だ。
ぶっちゃけ、釣りは運だ。いくら技術に秀でていても、そこに魚がいなかったら釣れはしない。一方で、釣りは技術だ。もしそこに魚がいたとして、キャストミスや通すコースを間違えれば、魚は釣れてくれない。
自分のミスで、チャンスを逃すようなことは絶対にゆるされない。
腹を決めて振り被る。
流心を通す一投。
飛距離を二投目と同じくらいに担保しつつ、より左側へ。
重心移動を搭載したルアーは空中姿勢を乱すことなく、まっすぐに滝壺へと吸い込まれていった。
帰れない
蛍が舞っている。一匹や二匹ではない。
それはカーテンのように水際の植物を覆っていた。
光を尻目に船は進
む。
あたりはもう真っ暗だ。
衝突を起こさぬよう、即座に止まれるよう。
船はゆっくりと進んで行く。
滝のところでカメラマンを2人拾った。フェイスブック交換した。
結局この日も振るわなかった。
何がいけない? どうすればいい?
アタリ一つない。手がかりがない。糸口を全くつかめない。
思考と、エンジン音と、水の音とが頭の中でぐるぐる回っていた。
このままじゃ、帰れない。
陸に戻ると、先日ボートを出してくれた陽気なじーさんが出迎えてくれた。
心なしか、ちょっとだけガフさんがペコペコしているように見える。
ガフさんはじーさんとちょこっとだけ話し、それから僕の方を向いた。
「ホンダ、うちのボスだ。挨拶はしたか?」
えっ! このじーさんが?
あっけにとられる僕。ハハッとガフさんが笑った。
宿に戻ると、管理のおばちゃんがランブータンの仕分けをしていた。
「それ、ランブータン? 日本では見かけないんだよねー」
そんなことを横で言っていたら、いくつか分けてもらえた!
初めてのランブータンはなんだか味気なくて、すっぱかった。
写真で見たことあるのはもっと赤かったような……
明日は最終日
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